観戦せざる観戦記

プロの将棋をもとに考えたもの

羽生善治 棋聖 vs. 渡辺 明 竜王 第76期順位戦A級7回戦 観戦記

第76期順位戦A級7回戦

羽生善治 棋聖 vs. 渡辺 明 竜王

 

この将棋に、特に感銘を受けたというわけではない。

ただ、観戦せざる観戦記を書くのはなかなかおもしろいので、またしても空想で。

 

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩▲6八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲3八銀△6二銀▲4六歩△4二玉▲4七銀△3三銀▲5八金△6四歩▲6八玉△6三銀▲3六歩△7四歩▲5六銀△1四歩▲1六歩△7三桂▲7九玉△6二金▲9六歩△9四歩▲6六歩△5四銀▲3七桂△8一飛▲4七金(第1図)

第1図

f:id:shinobu86:20171130121421g:plain

特に目新しいことはない序盤である。

ただ、以前は対抗形が多かったが、後手の玉の位置が少し珍しい。

コンピューター将棋が右玉を目指すことが多いので、それに倣ったものだろう。

ここから渡辺が動く。

(第1図以下の指し手)

△6五歩▲同歩△同桂▲6六銀△6四歩打(第2図)

第2図

f:id:shinobu86:20171130121726g:plain

後手の作戦は、通常は王を飛車の方に寄せていくのだろう。

ただ、それは渡辺の棋風とは少し違うようにも思える。

このように積極的に指した方が、渡辺らしい。

第2図は、後手から飛車先も交換できるし、先手の8筋は薄いし・・・ということで、後手を持って悪い気はしないだろう。

さて、羽生は?

(第2図以下の指手)

▲4五銀△6三銀▲3五歩△同歩▲2五桂△2四銀▲5五角打(第3図)

第3図

f:id:shinobu86:20171130122012g:plain

羽生は▲4五銀から一気に踏み込んだ。

第一感

「こんな簡単な攻めでいいのか?」

である。

これでつぶれては、後手はつらい。

(第3図以下の指手)

△3三桂▲同桂成△同銀▲同角成△同金▲5五桂打(第4図)

第4図

f:id:shinobu86:20171130122220g:plain

羽生は角を叩き切って、5五に桂を据えた。

言葉は悪いが、羽生の攻めは時にこのように感じる。

「狂ったように攻める」

マチュアのように、暴牛のように、ひたすら猛進する。

そんなイメージだ。

私は、この局面を見ても、後手が切られているようには見えない。

さて、当然銀を逃げると思ったが、渡辺は違った。

(第4図以下の指手)

△5二玉(第5図)

第5図

f:id:shinobu86:20171130122557g:plain

指されてみるとなるほどの一着。

3三の金が上ずっているが、そのあたりから戦火が上がることを予想して、先にかわしていく。

6筋の形はなかなか上からは攻めにくいという判断もあるだろう。

ただ一方では、この王を寄ると、桂成りには「同玉」が必要になる。

その形は、安心からは程遠い。

さっきまでの「(この攻めは)なんじゃこりゃ」

という感じが少し薄れてきている・・・

そして・・・

(第5図以下の指手)

▲7七桂(第6図)

第6図

f:id:shinobu86:20171130122852g:plain

羽生は守りの桂も繰り出した。

「ここまでやるのか!」

という印象である。

その一方で、後手の王が6三に来た時に、再度5五に打つ桂馬があればものすごく厳しいということもわかる。

何やら、流れが先手に傾いてきたような・・・そんな気配がある・・・

(第6図以下の指手)

△4九角打▲6三桂成△同玉▲6五桂△同歩▲6四歩打△同玉▲6五銀△同玉▲5八銀打(第7図)

第7図

f:id:shinobu86:20171130123142g:plain

渡辺は、4九角によって攻めを間接的に受けるほかなかった・・・ようだ。

私は、なぜ渡辺が6三の銀を逃げないのか、不思議だ。

6三の銀を逃げれば、先手はおそらく6三に歩を打つ。その歩は先手にとって唯一の歩だ。その歩を打たせれば、先手の攻めは細くなるのではないか・・・漠然とした印象だが、そんなことを考えていた。

さて、実戦は、これもまた羽生がずいぶん攻めた。

効果はよくわからない。王を危険地帯に呼び込んで、それから角を詰ました。

渡辺玉は広い。また、すぐに捕まる格好ではない。

形勢は私にはわからなかった。

ただ、先手が流れを作り、後手はそれに追随しているということはいえるだろう。

(第7図以下の指手)

△8六歩▲4九銀△6七桂打▲同金△8七歩成(第8図)

第8図

f:id:shinobu86:20171130123555g:plain

渡辺は必死に勝ち筋を読んだだろう。

たとえば、2七銀、8六歩、同角成・・・

その結果選ばれたのが本譜の手順だ。

第8図を見ると、選定玉は極めて広い。右にいくらでも逃げ出せそうだ。

後手玉はこれから、押しつぶされることが目に見えている。

つまり、手はなかったのだ。

第7図、あるいはその前から羽生の作り出した流れは、この局面を導いた。この局面は、ようやくアマチュアにも、形勢の差がわかりそうな(わかるとは言わない)局面といえるだろう。

その局面、あるいはその流れを、いったい羽生はどこで見通していたのか・・・

(第8図以下の指手)

▲5六銀△6四玉▲5五角打△6三玉▲6四銀打△5二玉▲6三歩打(第9図)

第9図

f:id:shinobu86:20171130124009g:plain

予想通り、上から圧力をかけていく。

最終手の歩打ちがちょっと意外な手だ。

マチュアはたいがい、金をとるだろう。

しかし、きっとこの歩の方が確実なのだろう。

先手玉は読む気もしないほど広い・・・

(第9図以下の指し手)

△7八銀打▲6八玉△4四桂打▲6二歩成△4一玉▲5三銀成△8六角打▲5八玉△5三角▲4五桂打△投了(投了図)

投了図

f:id:shinobu86:20171130124224g:plain

 

圧勝である(と見える)。

一体渡辺の何が悪かったのか。

私には、渡辺の王寄りが意外だった。銀を逃げて持ちこたえられるのではないかと思った。

5五の桂を打った局面、あの局面は、果たして先手の攻めが通っていたのだろうか。

 

しかし、十分な持ち時間の中、渡辺は王寄りを選択した、せざるを得なかったのだ。

それが最善だったのだろう。

 

羽生の強さ、それはこのような一気の流れの将棋ではなかなか見えにくい・・・

竜王戦、渡辺はいよいよ窮地に陥ったといえるだろうか、あるいはこの将棋で、悪い流れを極め切って、後は上がるだけ、といえるだろうか。