観戦せざる観戦記

プロの将棋をもとに考えたもの

南 芳一 九段 vs. 藤井聡太 五段 第68期王将戦一次予選②

さて、前回は藤井五段が懸命に粘り、手数はかかったものの、南九段が大量リードを守って終盤を戦っているところまでであった。

その続きである。

 

第10図

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(第10図以下の指手)
△2二馬▲3六歩△2五歩▲同 歩△5五歩▲6三歩成△4四桂打▲3七銀△1八歩打▲3八金△1九歩成▲同 玉△2五金▲2八玉△2四桂打(第11図)

 

この譜は後手の藤井五段が見事。

まず、馬を飛車でとられては困るので、△2二馬はこの一手だろう。

そして、5筋を歩で止めて、桂馬をなぜか4筋におく。固そうな、攻めにくそうな3六をねらうというのがきづきにくい。

そして、端歩を絡めてうまくなり捨て、先手が王をもとの位置に戻す間に、2枚目の桂を2四に据えた。

こうなると、もう先手としては相当に嫌である。

どこを攻めていいかもわからないし、どこを受けていいかもわからない。

ぼろぼろと駒を取られそうである。

ここまでは屈辱的な苦戦であったが、じっと忍んできた。そしてついにここまで持ってきた。

今あるところで、今ある局面で、今ある力を出し切って、戦う。そういうありかたのすばらしさというのだろうか・・・それを感じる。

圧倒的に勝つ日もあるが、そうはいかないこのような将棋でも、同じように苦しんで考えて、力を尽くす。そういう姿が浮かぶ。


第11図

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(第11図以下の指手)
▲3九玉△2八歩打▲1七桂△2九歩成▲同 玉△1六金▲同 銀△3四香打▲2五銀△1五香▲1三歩打△同 香▲1四歩打△同 香▲1三歩打(第12図)

この苦境に至って、先手も工夫した対応をした。

いったん王を引き、△2八歩に対して、端に桂をはねて金に当てたのである。

後手は、△1六金から駒得を図ることはできるのだが、1六に桂が行くと、攻めが前に進まなくなるイメージがある。それを先手は誘ったのである。

そのため、後手もとれる銀を取らずに△3四香とさらに駒を足した。

よさそうな手ではあるが、取れる銀が手順に▲2五に来たのは痛かった。

複雑でよくわからないが、じっと銀を取っておくほうが勝った可能性もある。


第12図

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(第12図以下の指手)
△1二歩打▲3九玉△1七香成▲5三と△4五桂打▲4二と△3七桂成▲同 金△4二金▲3一角打△4一歩打(第13図)

後手の△1二歩で、またしても先手の攻めがとまる。そこで、▲3九玉!

ほかにも▲5三と!▲4二と!

もう、何か遅すぎて何が何だかわからない・・・

後手の攻めの方が直接的でかつ厳しそうである・・・

しかし、とにかく先手は後手の馬に迫り、後手は金底の歩を打って固めた!


第13図

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(第13図以下の指手)
▲2二角成△同 玉▲4八玉△2八銀打▲5四桂打△3二金▲4一飛成△3七銀▲同 玉△3一金打▲4四竜△4三香打▲5五竜△3六香(第14図)

ここまでの流れがあるので、観戦しているだけでも頭がおかしくなりそうだったが、冷静に見ると、後手の馬が消されたところで、急に後手陣が頼りなくなったのが分かる。

それまで何も見えなかった後手陣が、▲5四桂にもあいさつしなければいけない状況に陥っている。

懸命に後手も先手に迫るが、いかんせん、駒が不足しているようだ・・・

 

第14図

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(第14図以下の指手)
▲同 銀△2八角打▲4八玉△5五角成▲同 竜△3六桂▲5九玉△6七歩打(第15図)

細そうな攻めだが・・・後手陣に詰めろがかからない・・・


第15図

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(第15図以下の指手)
▲7五竜△2九飛打▲4九香打△6八銀打▲同 金△4九飛成▲同 玉△6八歩成▲5八金打△4八歩打▲同 金△3九金打▲投了(投了図)

懸命に手を伸ばしにかかるが、ついにつまされてしまった。

逃げ切る術があったのかどうかだが、もう、ここに至ってはそのような審理を追及する意味はあるまい・・・


投了図

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南九段は本当に残念であった。

しかし、これほどさせるのはすばらしい。

ベテランの強さをつくづく感じた。ぜひ、次は勝利をしていただきたい。

 

勝った藤井五段はもちろん見事であった。

負け将棋に対する戦い方は人それぞれだが、早々にあきらめるのは、私は好きでない。

ちょっとばかりベテランファンの私にはつらい将棋であり結果ではあったが、これがプロの将棋であろう。負けを何としても回避しようとし、手練手管を駆使する、それがプロだと思う。

「まいったね」といってあきらめることはたやすい、そうしない姿を見せてもらい、自分の日々にも生かしたい、ということも思う。