観戦せざる観戦記

プロの将棋をもとに考えたもの

藤井聡太 五段 vs. 広瀬章人 八段 第11回朝日杯将棋オープン戦決勝 観戦記②

藤井五段が模様をよくしている局面だが、決定的な差がついているとまでは言えないのかもしれない。

ゆっくりしていれば先手の攻め駒が一掃される恐れもある。

模様はよくても、攻める責任が先手にはある。

 

第10図

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(第10図以下の指手)

△4一飛▲8六銀△5五歩打▲7七桂
(第11図)

先手の回答は、▲7七桂であった。

この手も気づかなかった。

▲8六銀はわかるが、それは銀を使うのではなく、桂の道を開けたわけだ。


第11図

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(第11図以下の指手)

△5六歩▲6五桂△6一桂打▲5六銀△3七角打
(第12図)

あとはこの▲7七の桂を使って攻めるだけ、と思われるが、先手は焦らない。

▲5六銀と歩を補充しつつ、銀を繰り出す。

この落ち着きはどうだ!

なんと、さっきの意味のよくわからなかった▲4九飛車まで、金に紐をつけて役立っているではないか!

 

対する広瀬八段は、苦しいようでも、△3七角を放った。

遠く成銀に当て、一方では4八の金も狙う。いわば両取りに近い手だ。

攻防一体の好手と見える。

一瞬、後手が逆転したのでは、とすら思った。

そのあと、これは見た目ほどの手ではないと思った。

というのは、一見後手は自陣に馬を引き付けられそうだが、それではダメなのだ。馬を引き付けたら勝てるというものではない。引き付ければその馬が狙われる。

今や局面は、互いの王を狙う局面になっている。ゆっくり馬を引き付けるような局面ではない。

そうすると、この角は、4八の金を狙うしかないのだ。

しかし、それは難しい。4八の金を仮にとった場合には、後手は大駒を手に入れることになるし、そもそも、後手陣が持ちそうにない。

つまり、見た目は鮮やかだが、

「受けきることはできず、やむなく攻めに転じた」

ということを示した角だったようである。


第12図

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(第12図以下の指手)

▲7三歩成△同 桂▲同 成銀△同 金▲同 桂成△同 玉
(第13図)

とはいえ、成銀はさばかなければならず、先手は清算した。

雰囲気は押し切れそうな局面だが、しかし、では何を指すかというと、よくわからない。私が先手なら余されるだろう。

しかし藤井は違う。

見事な一手を放った。

私は、駒を落としたのではないかと思うほど衝撃を受けた。


第13図

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(第13図以下の指手)

▲4四桂打
(第14図)

金取りの桂。

取れば▲4五歩。

放置すれば金か、角か、どちらかとれる。

まさに決め手である。


第14図

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(第14図以下の指手)

△2六角成▲3二桂成△4三飛▲7四歩打△同 玉▲6五銀△8三玉▲8五銀△4五角▲7四歩打△8一桂打▲6四銀△8二銀打▲8四金打△7二玉▲7三歩成△同 桂▲7四銀△8五桂▲同 金△7六歩▲5六桂打△3六馬▲3七金△投了

 

投了まで、もはや争うところはない。

ただ、広瀬八段の△2六角成は相当の精神力を示した手である。

▲4四桂の局面で投げる人もいるかもしれない。


(第15図)
第15図

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おもしろい将棋だった。

広瀬八段の(おそらく)研究手から始まり、双方が持てる技を繰り出した。

広瀬八段の力があってこそ、見ごたえのある将棋になったといえる。

4四桂のような手は、互いが拮抗した局面を作ったからこそ生じるのだと思う。

 

さて、こうなるといよいよ、次はタイトル戦に出てくることがほぼ確実といえよう。

いったいどのタイトル戦が最初になるのだろうか。

そして、その持ち時間の長い将棋でも、やはりこの快進撃は止まらないのであろうか?