観戦せざる観戦記

プロの将棋をもとに考えたもの

藤井聡太 五段 vs. 広瀬章人 八段 第11回朝日杯将棋オープン戦決勝 観戦記①

羽生を破った藤井を決勝で迎え撃つのは、広瀬八段。

A級棋士であり、その終盤力は誰もが認めるところである。

ただ、藤井の終盤力は桁違いとも思われるため、藤井よりも有利な面があるとすれば、それは終盤力ではなく、経験ということになるのではないだろうか。

 

(初手からの指手)

▲2六歩△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩▲7八銀△3二金▲4八銀△7七角成▲同 銀△2二銀▲4六歩△6二銀▲4七銀△4二玉▲3六歩△7四歩▲7八金△3三銀▲5六銀△6四歩▲3七桂△7三桂▲6八玉△6三銀▲4八金△8一飛▲2九飛△6二金▲6六歩△5四銀▲9六歩△9四歩▲1六歩△1四歩▲7九玉△4四歩▲4五歩
(第1図)
第1図

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自然な形で先手の藤井が開戦した。

シンプルな仕掛けだが、堂々とした開戦である。

しかし、この局面は、おそらく広瀬八段の想定局面であった。

広瀬八段は(おそらく)準備していた一手を放つ。


(第1図以下の指手)

△5二玉
(第2図)

それがこの△5二玉である。

受けては王をかわし、攻め手は△4一飛車を準備する。

先手の自然な攻めを悪手にしようという一手。さすがの一手である。

 

余談だが、この辺りで、対局時計が故障し、手番が先手の藤井五段であるにもかかわらず、広瀬八段の持ち時間が減るというトラブルが起こった。

このまま持ち時間が減ったままでは不安な広瀬八段は席を立つ。

他方、藤井五段は、局面に集中して、時計のトラブルなど気づかない様子である。

このとき、私は、盤上に集中している藤井と、それができていない広瀬の対比の構図に見えた。

しかし、後から考えると、これほど注目されている一戦が万が一にもこのようなトラブルでケチがついてはならない、という配慮から、広瀬八段が念のため確認に向かったとも思われる。そうすると、むしろさすがの広瀬八段と考えられる。

この後の戦いぶりをみても、広瀬八段が集中できていない、という様子はないのである。


第2図

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(第2図以下の指手)

▲2五桂△2四銀▲4四歩
(第3図)

シンプルな桂跳ね。これが先手の回答であった。

できれば銀は△2四以外に逃げて、桂馬を取る手を残したい気がするのだが、広瀬八段はそういう構想ではなかったのである。

一見、桂を跳び、歩を取り込んで先手絶好調に見えるが、これは広瀬八段の待ち受けるところであった(と思われる)。


第3図

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(第3図以下の指手)

△4一飛▲7五歩△同 歩▲7四歩打△4四飛▲4七銀△4一飛
(第4図)

△4一飛車からの逆襲。これが広瀬八段の狙いである。

先手が得した歩で、△7三の桂を殺したが、これも予定通り。

代わりに歩を多く持ち、先手に制約を与えている。

歩切れに追い込むことによって盤上を制圧しようとする大きな構想である。

ところが・・・


第4図

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(第4図以下の指手)

▲6七角打
(第5図)

私はこの手をみて、先手がいいと思った。

後手の構想の中では、先手が簡単に歩をもっては困るのである。

ところが、この角打ちで、先手は、左右どちらかの歩を取れてしまう。

そのうえ、その角は、今後活躍が見込める、つまり自然に歩切れを解消されてしまったのである。さすがの広瀬八段も、この局面までは想定していなかったのではないだろうかと予想する。


第5図

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(第5図以下の指手)

△6三玉▲7三歩成△同 金▲1五歩△同 歩▲8五角
(第6図)

歩切れを自然に解消できて、先手は模様よし、と思う。

しかし、藤井はそんなぼんやりしたことは考えていなかった。

ひたすら、局面をよくすること、あるいは後手玉に迫ることを考えていたのである。

▲1五歩は、てきとうに突いているわけではない。狙いを持っている手なのである。


第6図

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(第6図以下の指手)

△7四金▲同 角△同 玉▲5二金打
(第7図)

角を引いておいても、不満はなさそうだったが、藤井は踏み込む。

つながっているようでもあり、細いようでもある。

しかしおそらくつながっている。あとから考えると。

いったい藤井はこのときどこまでを見通していたのだろうか。


第7図

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(第7図以下の指手)

△4三飛▲4四歩打△同 飛▲5六桂打△4五飛▲5三金
(第8図)

先に▲5六桂を打っておくのがいい手である。

私は気づかなかった。

解説の谷川九段も、うっかりしたようである。

この辺りの変化で、先手が一歩持ちたいと思うときに、さっきの端の突き捨てが役に立つのである。


第8図

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(第8図以下の指手)

△8一角打▲5四金△同 角▲5三銀打
(第9図)

いろいろな受け方が考えられるところであったが、△8一角というやや辛そうな受けが出て、先手が▲5三に銀を打ったところで

「攻めが決まった」

と見えた。

6四と4四の両方が同時には受からない。

(もっとも、現地の検討陣は、△5五角を考え、4四から清算されたときに、飛車ではなく角を残すことを考えていたそうである。しかし、全部生産した後に、▲5一飛車で後手の対応が分からない、ということのようであった)

 

(また、この辺りの局面で、形勢をはっきりというタイプの鈴木九段が、断定的なことを言っていなかったので、ひょっとするとまだ難しい局面なのかもしれない。しかし、私にはムードからして藤井が押し切るようにしか見えなかった・・・)


第9図

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(第9図以下の指手)

△8一角▲6四銀成△8三玉▲7四歩打△6二金打▲4九飛
(第10図)

先手が▲6四に成銀を作ったのは大きな成果。

ただ、現状ではもう一押しが見えない局面でもある。

そんな中、▲4九飛車。

今一つ意味が分からない手である。

まあ、悪手にはならないであろうが。

さて、現局面はお互いに形勢を動かしにくい、不思議な膠着状態に陥りつつある。

広瀬八段の力が、局面の差が広がるのを止めたというようにも見える。

先手の藤井五段は、ここからもうひと踏ん張りして、微差を広げにかからなければならない、そういう責任が生じている局面のようである。


第10図

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