第76期順位戦Ａ級７回戦
第８図（再掲）
さて、この局面から、先手はどういう方針を立てるのか、後手はどこまで思い描いているのか。
（第８図以下の指手）
▲７四成銀（第９図）
第９図
深浦の選択は成銀で桂馬を外すというものだった。
この忙しそうな局面で、受けに回ったのである。
しかし、よく見るとこの手は受けだけではない。
このままであれば、次に▲２三桂を打ち、△２二玉▲１一桂成となれば、一気に後手玉が寄りそうだ。
攻防一体の一手だったといえる。
（第９図以下の指手）
△２八歩打▲４九飛△７六桂打（第１０図）
第１０図
行方は、飛車先を止めて、それから７六に桂を打つ。
見た目はかなり厳しそうである。ただ、７四の桂をとられているため、何か後手の攻めの芯が失われているようでもある。
押し込めるのか、弾き返すのか。
第１０図以下の指手
▲７五成銀！△８八金打▲７七玉△６八桂成▲同玉△８七金▲７六成銀！
（第１１図）
深浦は、まず▲７五成銀。７六の桂馬の支えをとった。
そして、後手が何とか縛ろうとするところで、さらに▲７六成銀！
この成銀の引きつけで、一気にペースを握っている感じだ。
深浦の調子が出てきた。
（第１１図以下の指手）
△６五歩▲６一飛打△４一香打▲７八歩打△７五歩打▲同成銀△５二銀▲６二飛成△６六歩▲同銀△６一歩打（第１２図）
第１２図
行方は懸命に６筋を攻める。
成銀が厚いのは分かっているが、それでもここを攻めなければ道は開けない。
さて第１２図となって、どうか。
先手は一見馬をとるしかないように見える。竜が逃げると銀が取られてしまうからだ。
しかし・・・
（第１２図以下の指手）
▲７三角打△同馬▲同竜△４六角打▲２三桂打△２二玉▲５五角打△３三金▲６七玉（第１３図）
▲７三角がうまい手。
馬が逃げれば、竜を逃げることができ、銀もとられない。
以下、自然に進んで、第１３図は先手が王を立ったところ。
上は厚く、後手としては精神的にぐらっと来たに違いない。
届かない感じが濃厚になっている。それでも行方はあきらめない。
（第１３図以下の指手）
△５四銀打▲４六角△同歩▲４八歩打△２四金▲１一桂成△同玉▲５六香打（第１４図）
第１４図
▲５四銀は、何としても上部を止めて挟撃を図る一手。
それに対して深浦は、▲４八歩と打って、右側も防ぎきる。
そして最終手の香打ち。これは勉強になる。
後手陣の中で攻める駒は、この銀ということなのだ。
この銀が、竜を止めつつ上部を押さえるいい駒、だからこそこれを除去しに行く。
深浦は油断はしていない。いつも通り、踊らない手を積み重ねる。
（第１４図以下の指手）
△４七歩成▲同歩△４八歩打▲８九飛△４九角打▲同飛△同歩成▲５四香△９八飛打（第１５図）
第１５図
何とか行方は先手に迫ろうとするが、その間に先手は後手陣の銀を除去することに成功した。
先手玉は広い。しかし油断すると意外とあっという間に捕まることもある。
深浦は慎重を期したであろう。
（第１５図以下の指手）
▲５三香成△７八飛成▲５六玉△５三銀▲同竜△６二金打▲１三銀打△投了（投了図）
投了図
ついに行方が力尽きた。
最後の銀打ちにはとるぐらいだが、同竜のあと、次々に駒をとられてはもう見込みがない。
本局、私には見えないところで流れがあったのだと思う。
深浦の９五角が不思議な手、２四香は流れを変えたような印象的な手だった。
一方の行方は５五に馬を作ったところは美しい局面だったが、あの局面自体が少し足りないのかもしれない。
あるいは、あの後の深浦の成銀のひきつけがよすぎたか・・・
さて、深浦は大きい一勝を上げた。
大混戦である。
できれば名人挑戦についても混戦になるといいのだが・・・
均衡の保たれたおもしろい将棋だったと感じた。
